月曜日, 12月 18, 2023

2023年ベスト数学

放送大学で初めて数学のゼミに参加した。結局仕事が忙しくなって1度しか出られなかったが、客員教授が担当してくれて、学生が自主的に読み進める。噂には聞いていたが、本当に教科書の2、3ページを進めるのに3時間かける。内容は多様体で、参加者は工学部出身で数学に挫折した人から、美容関係の仕事をしつつ突如量子力学に目覚めた人まで多様。多様体だけに。

放送大学では『数学の歴史』も履修している。今でいう数学や哲学、芸術はかつてもっと渾然一体としていた、という話は知識としては持っていたし、多分野に渡る成果を出した偉人も知っているが、その実際のあり方までは想像できていなかったのですごく面白い。ルネサンス期の数学は古代ギリシャ数学を復興させるために語学に長けた人文主義者(コンマンディーノなど)が中心であったとのことだ。デューラー、ヤムニッツァーについても掘り下げて調べてみたい。

うまく人には説明できないのだが、自分にとって数学の記法や記号の整理はUIデザインに近い。ある概念を記号化し、操作可能にする。それによって人間の思考や能力を拡張する。世界の見方を変える。「使いやすさ」とも違う道具のあり方とでもいうのだろうか…。

夏にIAMASの進学相談があったので、ぼんやり考えていたことをまとめ始めた。そうして手を動かすとそれに応じて思考も進み、選び取る情報の精度も上がり、タイミングよくテーマに合った本を手に入れられる、みたいなことが起きる。私はこのために今までやってきたのだというような感覚。修士時代の疑問や課題は、良くも悪くもまだ手がつけられていないように思える。芸術と科学の両分野において、きちんとそれぞれの文脈を踏まえ学術的な作法に則り、新しい発見や手法をもたらしたい。もう少し具体的にいうと数理的な形の研究で、群論を調べていった先に何かがある気がしている。通常学術的な研究では素材の開発だったり空間の設計だったり実用化、最適化を目指して行われているが、表現としてもまだ開拓されていない領域があるのではないか。昔から数学の教科書に出てくる図版に惹かれていた。人間が自由に想像して作ったものというよりは、ある規則に基づいて人間が理解できる形を模索した結果、こうとしか表現できないといった趣で生み出されたもの。そういったものが大学数学だとさらに沢山ある。

参考になりそうなのは数理的な研究の立場から芸術にアプローチしていった人たち。今年のお気に入りを挙げておく。

  • 高木隆司『かたちの不思議』
  • 伏見康治『紋様の科学』
  • 福田宏、中村義作『エッシャーの絵から結晶構造へ』
  • 日本図学会編『美の図学』
  • 西山亨『フリーズの数学 スケッチ帖』
  • 吉田武『たくましい数学』

この記事は2023アドベントカレンダー2023の18日目でした。17日目は nagayama さん、19日目は nnca_ntn さんです。お楽しみに。

月曜日, 12月 12, 2022

2022年のベスト数学

ようやく数学との付き合い方が分かってきたように思う。机の周りなど自然と手に取れる範囲にある本が数学の本になってきた。以前はまだ「頑張って数学を勉強するぞ」という感じだったが、だいぶ気負いなく楽しめるようになったと思う。世間的にも大学数学の教科書が、大手の出版社から手に取りやすい価格で出たりして、高度な内容を体系的に楽しめる状況が整いつつある。Martin H. Weissman、安福悠『図解する整数論』は、まさに自分がやりたかったことではないか(2019年の最後の段落)と驚いたと同時に、数学の言葉でこういう風に語れればやれることがありそうだと自信をもらった。「数は、数えたり測ったりするために使うものとし、それ以上は考えない」という姿勢。他にも「フリーズの数学」や「ヤング図形」など、新しい景色が見えてきていて興味は尽きない。

放送大学

面接授業で『身近な群』という講義を受けた。ルービックキューブやあみだくじや壁紙のパターンのような「日常的に目にする」身近さを想像していたのだが、「線形代数で考えると具体例が沢山見つかる」という意味の身近さだった。群は抽象代数学で扱うのが主流ではあるが、先生は幾何のご出身で、線形代数から群にアプローチして具体的な計算に慣れることで理解を深めるのが狙い。もう少し知りたくなって参考書があるか聞いたら「ない」と言われた。色んな分野からかき集めたものであり、「本を読んで勉強するものではない」とのこと。「リー群」など関連しそうなキーワードだけ教えていただいた。

放送授業は去年単位が取れなかった微分積分と線形代数を引き続き受けている。これらを勉強したくて始めたのに、「しっかり理解したいから後で時間とろう→そんな時間はない」となってしまっている。理系科目の難しさは度々言及されているので、じっくりやっていこうと思う。

図書館にもお世話になっていて、Springerや丸善が提供する電子書籍が読める。いつか買うつもりの『プリンストン数学大全』も読めるし、ブルーバックスなども結構な冊数が読めるので本当にありがたい。また、知らずに読んでいたのだが高橋礼司『対称性の数学』や石田英敬『現代思想の教科書』は放送大学での講義を基にした書籍で、千葉の本部図書館に行けば映像を観られるようだ。CTGの槌屋治紀も『技術の分析と創造』という講義を開いていた。教科書を中古で買ったが、コンピュータアートに関しては一切触れていなかった。

コンピュータと美学

図書館といえば川野洋『コンピュータと美学』を東京都現代美術館の図書室で読んだ。メディアアートの先駆者として個人的な興味で調べていたのだが、自分たちが学生時代にしていた作品と論文を組み合わせる形式も、この流れにあったのだと分かり、約20年の時を経て納得した。絶版で中古市場でも手に入りづらくなっているため、復刊あるいは電子書籍化できないかを出版社に問い合わせたところ、真摯な回答をいただいた。ひとまず経緯を見守りたい。

川野さんの作品も展示されていた『イメージ・メイキングを分解する』という展覧会があったのだが(不覚にも観に行けず図録のみ入手)、ここに木本圭子さんが寄せたテキストには元気づけられた。オンラインでも読める。

ここまで、私が接してきた数学のことを書いたが、まだどれも入り口だと考えている。いろんな数学書(解析や多様体や複素解析など)を読んできたが、その最初の数十ページの基礎の思考が重要だった。

野生の秩序、散歩の途中 | TEXTS | ÉKRITS / エクリ

群論の入門書を読み、非常にシンプルな規則からものすごい広がりが生まれていると錯覚していたのだが、歴史的には逆で、さまざまな分野の議論が整理され削ぎ落とされて成立したものらしい。「数十ページの基礎の思考が重要」というのはそういうことだろうと思う。

木本さんの仕事を調べていると東京理科大学の科学フォーラムが見つかった。2010年7月号のコンピュータアート特集で、他に川野洋、ハロルド・コーエンなどが寄稿している。川野さんは10月号にも記事を書いており、彼の作品がZKMに寄贈されるに至った流れを説明している。本人が亡くなる2年前の原稿で、歴史的にも重要な資料のはず。これもどうすれば入手できるかを問い合わせたら、10年以上前のもので傷や汚れがあるとのことで「お役に立てれば幸いです」と無償で譲っていただいた(実際はとても綺麗な状態だった)。

このようにさまざまな窓口は開かれている。SNSに閉塞感を抱くでもなく、Web3に望みを託すでもなく、見知らぬ人々と立場を超えて繋がれるインターネットはただそこにある。


この記事は2022 Advent Calendar 2022の12日目の記事として書かれました。昨日はjune29さん、明日はshikakunさんです。お楽しみに。

水曜日, 12月 08, 2021

2021年の数学

去年書いたように今年は放送大学を始めた。前期に「初歩からの数学」を履修し終え、後期に「入門線形代数」「入門微分積分」を履修している。実は履修登録の仕組みを勘違いし、前期で1年分の授業を取ってしまい大変な目に遭った。登録した科目は次学期に再挑戦が可能なので、線形代数と微分積分は前期の試験を受けず後期に回した。放送授業は履修登録したもの以外もネットで観られるため、前期から少しずつ観てはいたのだが、仕事が忙しくなるとどうしても気持ちを切り替えられず、まとまった時間を取れなかった。

絹田村子数字であそぼ3巻14話「数学学習の一意性」より

今のところ線形代数はまだついていけている感覚があるのだが、微分で躓いており、通信指導の結果も思わしくなかったので、単位認定試験までに復習しなければならない。さらに演習問題をこなす必要性を感じたため、新たな参考書も購入した。

そんな中で今年のベストは、Anthony Froshaugを再発見したことだ。Amazonの履歴によれば2010年、当時はタイポグラフィやグリッドデザインへの興味から何の気なしに作品集を買っていたのだが、最近になって彼がかなり数学に傾倒していたことを知った。ウルム造形大学やロイヤル・カレッジ・オブ・アートなどでグラフィックデザインを教えており、50歳を過ぎてから自らもOpen Universityという通信制大学で数学を勉強していた。作品集にメモが載っていて、その内容が群論だと分かったのは嬉しかった。同じ時期にCentral School of Artで開いていたVisual Mathematicsという授業がとても気になる。

ちょうど来年彼についての本が出るようで、こちらも期待している。

この記事は2021 Advent Calendar 2021の8日目の記事として書かれました。昨日はnbqxさん、明日はnobokoさんです。お楽しみに。