直接仕事に関わらない分野で、今年一番時間をかけたのは、数学。コンピュータを使った仕事をしているので、数学を「応用」する機会はあるが、応用ではなく純粋な数学がやりたくなった。高校時代は理系だったが、その後の人生で数学を深く学ぶことはなかった。プログラミングで数式を視覚化したり、幾何学的な図形を作りたいとは常々思っているけど、むしろ視覚化できない図形や空間を操作できる世界に可能性があるんじゃないかと思い始めた。こちら側に持ってくるのではなく、あちら側に飛び込もうという訳だ。
そのきっかけになったのは、高校数学のやり直しでもなく、雑学とも違うちょうどいい読み物を探していて、たまたま手に取った『数学する精神』だった。これを読んで、「自分みたいな人間でも数学をやっていいのだ」と思うことができた。
著者の加藤文元さんのことを調べていたら、新宿の朝日カルチャーセンターでの授業を見つけ、すぐに申し込んだ。カルチャーセンターって完全にノーマークだったけど、メディアで見かける人たちが思想的な講義を持ってたりして、新たな鉱脈を発見した感がある。
「MATH POWER 2017」での宇宙際タイヒミューラー理論の解説も聴きに行った(宇宙際タイヒミューラー理論を理解しているのは世界で10人くらいで、加藤先生はその1人だそう)。この講義は観客も超満員で非常に熱気がこもっていて、新しい世界に触れることへの期待と知的興奮に満ちた、とても幸せな場だった。中高生でも分かるように解説するということで、数式もあまりでてこず、感覚的に掴めるようになっている。一部でバズった「たし算とかけ算の関係は複雑すぎてよくわからない!」「映像の中のパズルと現実世界のパズルのピースを合わせるイメージ」が気になった人は当日の動画をご覧いただきたい。とにかく整理されたプレゼンで、語り口も含めてその知性に惚れ惚れする。
いまは月に1回、先述のカルチャーセンターで加藤先生の代数幾何学の授業に出席している。途中で日程変更があり、全ての開講日が月の第4火曜になった際に「規則的になったという意味では、この変更は酷い変更ではないですよね?」と言ってて数学者っぽいと思った。生徒の平均年齢はおそらく60歳を超えているので、趣味としては早過ぎたかも知れない。
代数幾何学の本は「入門」と書かれていても数学科の学部卒くらいの知識が必要なので、うかつに買うと痛い目に遭うらしい。大まかなイメージが掴めて読み物としても楽しめるのは『デカルトの精神と代数幾何』とのこと。絶版なので先日オークションで落とした。そこには「数学の本の読み方(高校生のために)」という短いコラムが掲載されているのだが、「書を閉じてペンをとれ」とあった。
今まで自分は「間違ってもいいからとりあえず考えを進めてみる」ということができなくて、何も書かないか、解答を覚えるという方法でやり過ごしてきた。他の科目ではできてたし、プログラミングでも近いことをしているので、なぜ数学でそれができなかったのか今にしてみれば謎なのだけど、とにかくようやく変な呪縛から解放されて、「数学する」ことができるようになった。そんな2017年。
このpostは 2017 Advent Calendar 2017 第8日目の記事として書かれました。昨日は polygon_planet さんでした。明日は poochin さんです。お楽しみに。