日曜日, 12月 15, 2024

2024年のベスト数学

今年のベストはアルブレヒト・デューラー『測定法教則』注解を買ったこと。
デューラーは画家として有名で、この本も中央公論美術出版から出ている。正式には『線、平面、立体におけるコンパスと定規による測定法教則、理論を愛する全ての人の利用のために、アルブレヒト・デューラーの著した説明図付きの書、1525年印刷』と訳されるそうだ。

放送大学で去年履修した三浦伸夫『数学の歴史』で知ったのだが、この三浦教授が第二編で「数学史におけるデューラー」という解説を書いている。

デューラーには「若者が基礎を弁えずにただ日常的な慣習だけから学び」「無知のままに成長し」「無思慮に自己の好みのままに作品を作った」という不満があった。絵画に必要な数学的知識を若者に教え、絵画に数学的な基礎付けをすることで、技芸から学へと高める目的があったという。これは自分がクリエイティブコーディングに感じている不満に通じる。単純に現代的な感覚に引き付けて考えるのは危険だし、数学が基礎付けられることで学術となるか、それが正しいのかは自明ではないが、「蜘蛛の形の関数」や、アルファベットの書き方も解説していて、さながらクリエイティブコーディングをきっかけにプログラミングに興味を持ってもらおうとする現代の教育者のようだ。証明はなく実用に重きをおいた内容ではあるものの、高度すぎて若者に数学を理解させるという目的は達成できていない、というのが現代での評価ではある。コンピュータの恩恵に与り、テキストだけでなくゲーム的な仕組みでそこを乗り越えるのが自分の研究になると思う。

先日、高木隆司が立ち上げた「形の科学会」のシンポジウムがあったので聴講してきた。学生時代は学会に入っていなかったのだが、改めて学術コミュニティっていいなと思った。全ての発表に質問する先生や、御年84歳で新しい理論を発表し続けている宮崎興二先生を間近で見て、大変に刺激になった。

実は『プリンストン数学大全』も買ってしまった。なかなかの出費の割に全然読めていないが、読もうと思えばいつでも読める安心感に価値がある。

この記事は 2024 Advent Calendar 2024 の15日目でした。14日目は juneboku さん、16日目は xKxAxKx さんです。お楽しみに。

月曜日, 12月 18, 2023

2023年のベスト数学

放送大学で初めて数学のゼミに参加した。結局仕事が忙しくなって1度しか出られなかったが、客員教授が担当してくれて、学生が自主的に読み進める。噂には聞いていたが、数学のゼミでは本当に教科書の2、3ページを読むのに3時間かける。内容は多様体で、参加者も工学部出身で数学に挫折した人から、美容関係の仕事をしつつ突如量子力学に目覚めた人まで多様。

放送大学では『数学の歴史』も履修している。今でいう数学や哲学、芸術はかつてもっと渾然一体としていた、という話は知識として持っていたし、多分野に渡る成果を出した偉人も知っている。しかしその実際のあり方までは想像できていなかったので、すごく面白い。ルネサンス期の数学は古代ギリシャ数学を復興させるために語学に長けた人文主義者(コンマンディーノなど)が中心であったなど。デューラー、ヤムニッツァーについても掘り下げて調べてみたい。

うまく人には説明できないのだが、自分にとって数学の記法や記号の整理はUIデザインに近い。ある概念を記号化し、操作可能にする。それによって人間の思考や能力を拡張する。世界の見方を変える。「使いやすさ」とも違う道具のあり方とでもいうのだろうか…。

夏にIAMASの進学相談があったので、ぼんやり考えていたことをまとめ始めた。そうして手を動かすとそれに応じて思考も進み、選び取る情報の精度も上がり、タイミングよくテーマに合った本が手に入る、みたいなことが起きる。私は今までこれのためにやってきたのだ、というような感覚。修士時代の疑問や課題は、良くも悪くもまだ手がつけられていないように思える。芸術と科学の両分野において、それぞれの文脈を踏まえ学術的な作法に則り、新しい発見や手法をもたらしたい。もう少し具体的にいうと数理的な形の研究で、群論を調べていった先に何かがある気がしている。通常学術的な研究は素材の開発だったり空間の設計だったり実用化・最適化を目指して行われるが、表現にもまだ開拓されていない領域があるのではないか。私は昔から数学の教科書に出てくる図版に惹かれていた。人間が自由に想像して作ったものというよりは、ある規則に基づいて人間が理解できる形を模索した結果、こうとしか表現できないといった趣で生み出されたもの。

参考になりそうなのは数理的な研究の立場から芸術にアプローチしていった人たち。今年のお気に入りを挙げておく。

  • 高木隆司『かたちの不思議』
  • 伏見康治『紋様の科学』
  • 福田宏、中村義作『エッシャーの絵から結晶構造へ』
  • 日本図学会編『美の図学』
  • 西山亨『フリーズの数学 スケッチ帖』
  • 吉田武『たくましい数学』

この記事は2023アドベントカレンダー2023の18日目でした。17日目は nagayama さん、19日目は nnca_ntn さんです。お楽しみに。

月曜日, 12月 12, 2022

2022年のベスト数学

ようやく数学との付き合い方が分かってきたように思う。机の周りなど自然と手に取れる範囲にある本が数学の本になってきた。以前はまだ「頑張って数学を勉強するぞ」という感じだったが、だいぶ気負いなく楽しめるようになったと思う。世間的にも大学数学の教科書が、大手の出版社から手に取りやすい価格で出たりして、高度な内容を体系的に楽しめる状況が整いつつある。Martin H. Weissman、安福悠『図解する整数論』は、まさに自分がやりたかったことではないか(2019年の最後の段落)と驚いたと同時に、数学の言葉でこういう風に語れればやれることがありそうだと自信をもらった。「数は、数えたり測ったりするために使うものとし、それ以上は考えない」という姿勢。他にも「フリーズの数学」や「ヤング図形」など、新しい景色が見えてきていて興味は尽きない。

放送大学

面接授業で『身近な群』という講義を受けた。ルービックキューブやあみだくじや壁紙のパターンのような「日常的に目にする」身近さを想像していたのだが、「線形代数で考えると具体例が沢山見つかる」という意味の身近さだった。群は抽象代数学で扱うのが主流ではあるが、先生は幾何のご出身で、線形代数から群にアプローチして具体的な計算に慣れることで理解を深めるのが狙い。もう少し知りたくなって参考書があるか聞いたら「ない」と言われた。色んな分野からかき集めたものであり、「本を読んで勉強するものではない」とのこと。「リー群」など関連しそうなキーワードだけ教えていただいた。

放送授業は去年単位が取れなかった微分積分と線形代数を引き続き受けている。これらを勉強したくて始めたのに、「しっかり理解したいから後で時間とろう→そんな時間はない」となってしまっている。理系科目の難しさは度々言及されているので、じっくりやっていこうと思う。

図書館にもお世話になっていて、Springerや丸善が提供する電子書籍が読める。いつか買うつもりの『プリンストン数学大全』も読めるし、ブルーバックスなども結構な冊数が読めるので本当にありがたい。また、知らずに読んでいたのだが高橋礼司『対称性の数学』や石田英敬『現代思想の教科書』は放送大学での講義を基にした書籍で、千葉の本部図書館に行けば映像を観られるようだ。CTGの槌屋治紀も『技術の分析と創造』という講義を開いていた。教科書を中古で買ったが、コンピュータアートに関しては一切触れていなかった。

コンピュータと美学

図書館といえば川野洋『コンピュータと美学』を東京都現代美術館の図書室で読んだ。メディアアートの先駆者として個人的な興味で調べていたのだが、自分たちが学生時代にしていた作品と論文を組み合わせる形式も、この流れにあったのだと分かり、約20年の時を経て納得した。絶版で中古市場でも手に入りづらくなっているため、復刊あるいは電子書籍化できないかを出版社に問い合わせたところ、真摯な回答をいただいた。ひとまず経緯を見守りたい。

川野さんの作品も展示されていた『イメージ・メイキングを分解する』という展覧会があったのだが(不覚にも観に行けず図録のみ入手)、ここに木本圭子さんが寄せたテキストには元気づけられた。オンラインでも読める。

ここまで、私が接してきた数学のことを書いたが、まだどれも入り口だと考えている。いろんな数学書(解析や多様体や複素解析など)を読んできたが、その最初の数十ページの基礎の思考が重要だった。

野生の秩序、散歩の途中 | TEXTS | ÉKRITS / エクリ

群論の入門書を読み、非常にシンプルな規則からものすごい広がりが生まれていると錯覚していたのだが、歴史的には逆で、さまざまな分野の議論が整理され削ぎ落とされて成立したものらしい。「数十ページの基礎の思考が重要」というのはそういうことだろうと思う。

木本さんの仕事を調べていると東京理科大学の科学フォーラムが見つかった。2010年7月号のコンピュータアート特集で、他に川野洋、ハロルド・コーエンなどが寄稿している。川野さんは10月号にも記事を書いており、彼の作品がZKMに寄贈されるに至った流れを説明している。本人が亡くなる2年前の原稿で、歴史的にも重要な資料のはず。これもどうすれば入手できるかを問い合わせたら、10年以上前のもので傷や汚れがあるとのことで「お役に立てれば幸いです」と無償で譲っていただいた(実際はとても綺麗な状態だった)。

このようにさまざまな窓口は開かれている。SNSに閉塞感を抱くでもなく、Web3に望みを託すでもなく、見知らぬ人々と立場を超えて繋がれるインターネットはただそこにある。


この記事は2022 Advent Calendar 2022の12日目の記事として書かれました。昨日はjune29さん、明日はshikakunさんです。お楽しみに。