放送大学で初めて数学のゼミに参加した。結局仕事が忙しくなって1度しか出られなかったが、客員教授が担当してくれて、学生が自主的に読み進める。噂には聞いていたが、数学のゼミでは本当に教科書の2、3ページを読むのに3時間かける。内容は多様体で、参加者も工学部出身で数学に挫折した人から、美容関係の仕事をしつつ突如量子力学に目覚めた人まで多様。
放送大学では『数学の歴史』も履修している。今でいう数学や哲学、芸術はかつてもっと渾然一体としていた、という話は知識として持っていたし、多分野に渡る成果を出した偉人も知っている。しかしその実際のあり方までは想像できていなかったので、すごく面白い。ルネサンス期の数学は古代ギリシャ数学を復興させるために語学に長けた人文主義者(コンマンディーノなど)が中心であったなど。デューラー、ヤムニッツァーについても掘り下げて調べてみたい。
うまく人には説明できないのだが、自分にとって数学の記法や記号の整理はUIデザインに近い。ある概念を記号化し、操作可能にする。それによって人間の思考や能力を拡張する。世界の見方を変える。「使いやすさ」とも違う道具のあり方とでもいうのだろうか…。
夏にIAMASの進学相談があったので、ぼんやり考えていたことをまとめ始めた。そうして手を動かすとそれに応じて思考も進み、選び取る情報の精度も上がり、タイミングよくテーマに合った本が手に入る、みたいなことが起きる。私は今までこれのためにやってきたのだ、というような感覚。修士時代の疑問や課題は、良くも悪くもまだ手がつけられていないように思える。芸術と科学の両分野において、それぞれの文脈を踏まえ学術的な作法に則り、新しい発見や手法をもたらしたい。もう少し具体的にいうと数理的な形の研究で、群論を調べていった先に何かがある気がしている。通常学術的な研究は素材の開発だったり空間の設計だったり実用化・最適化を目指して行われるが、表現にもまだ開拓されていない領域があるのではないか。私は昔から数学の教科書に出てくる図版に惹かれていた。人間が自由に想像して作ったものというよりは、ある規則に基づいて人間が理解できる形を模索した結果、こうとしか表現できないといった趣で生み出されたもの。
参考になりそうなのは数理的な研究の立場から芸術にアプローチしていった人たち。今年のお気に入りを挙げておく。
- 高木隆司『かたちの不思議』
- 伏見康治『紋様の科学』
- 福田宏、中村義作『エッシャーの絵から結晶構造へ』
- 日本図学会編『美の図学』
- 西山亨『フリーズの数学 スケッチ帖』
- 吉田武『たくましい数学』
この記事は2023アドベントカレンダー2023の18日目でした。17日目は nagayama さん、19日目は nnca_ntn さんです。お楽しみに。